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35歳からのイギリス就職活動記

シュガーケーキ シンデレラのカボチャの馬車ケーキ

Cake Decorating Magazineのおとぎ話特集で紹介した
シンデレラのかぼちゃの馬車ケーキ。

このケーキのように
360°どこから見てもモチーフの形に見えるケーキを
3Dケーキと呼びます。
主に子供向けケーキとして人気で
ロンドンのような大都市では専門の業者もあったほど。

私は日本では見かけなかったこのケーキに
当時大変興味を持っていて
専門業者の求人も結構探しました。
結局、当初は相手にはしてもらえなかった訳ですが・・・。

プロのケーキデコレーターになろうと思い
英文履歴書の書き方から学び
就職活動を始めましたが
先ほど書いたように
始めは全く手応えがありませんでした。

35歳で職歴無し
10歳以下の送迎が必要な子供がいて
(イギリスでは10歳以下の子供を
一人で通学路を歩かせたり、留守番をさせるだけでも法律違反。
虐待とみなされ通報されるのです。)
しかも英語がネイティブではない
ビザの取得もさせなくてはいけない外国人を
誰が雇うでしょう。
当然のことですよね。

そこで夫に交渉し
最大半年間の無給インターンでの求人を探すことにしました。
半年後には子供が11歳になり
学校への送迎が不要になり
イギリスの永住ビザの取得が可能になる時期で
職人としてのインターンの経験も
職歴無しをカバーできるのではないか
そうなると
私のハードルは英語と年齢のみになるはず。

それが一番大きいハードルかも知れませんが
でもその時は他にできることが思いつかず
とにかくやってみようと
フレンチパティスリーでのインターンを始めました。

なぜフレンチパティスリーか。
なぜなら冬場は
ケーキデコレーターの主な仕事であるウエディングが
イギリスではほぼ無いに等しく
ケーキスタジオは閑散期
求人が全くありません。

サマータイムが始まる3月最終週
この前に最も求人が増えることを
それまでの就職活動で知った私は
とにかくその時期までに職歴が書けるようにしようと
無給に難色を示す夫を説得しました。

結局インターン3ヶ月後には
お給料を頂けるようになりました。
元々コルドンブルーでフレンチパティスリーを学んだ私にとって
仕事そのものは楽しく
パティシエも良いかもと思い始めたほどでしたが
2月に思いがけない求人を見つけたのです。

当時私は様々なお店のサイトや
有名なケーキデコレーターの著書など
自分の目で見て探して
イギリス国内でその技術とセンスが最も素晴らしいと思う
デコレーターのスタジオをピックアップして
ウェブサイトの求人を常に確認していました。

ロンドン市内で通勤範囲内となると
現実的には5軒ほど
その中の1軒から
求人が出ていたのです。
それは
独創的でありながら上品なセンスの持ち主で
私がイギリス国内でも1、2を争う仕事の美しさだと思っていた
Zoe Clarkのスタジオでした。

地下鉄を乗り継ぎ
テムズ河を越えて
片道1時間半、往復3時間の通勤時間ですが
全く気にはなりませんでした。

きっと今からウエディングの繁忙期なんだと見込んだ私は
Zoeのスタジオを含め
ロンドン市内のここぞと思うスタジオ5軒に
英文履歴書と作品の写真を送りました。
募集していないところにも(笑)

現在パティシエとして働いていること
永住ビザ取得見込みであること
子供が11歳になることももちろん書き添えて。

すると
半年前まで返事が来たのは10分の1ほど、つまりほぼ全滅だったのですが
この時は5店全店から返信メールか電話が。
面接やトライアルワークの打診だけでなく
お断りの場合も
「もうすでにスタッフは決まってしまったが、もう一名必要な時には声をかけますね。」
「今は人手は不要だが、履歴書は保管して、繁忙期に必要な時には声をかけますね。」
などと対応がとても丁寧で。
何が目に留まったのかはわかりません。
でもとにかく、1年前とは全く反応が違ったのです。
もちろん私は憧れていたZoeのお店への就職を決めました。

給与を支払うには手がまだ遅いということで
1ヶ月間はインターンとしてでしたが
プロになろうと思い立ってから1年以上の時を経て
ようやくプロのスタートラインにたったのは
36歳の時
人生で初めての就職でした。

私はイギリスでカレッジに入った時には
自分がプロになってイギリスで働くとは思ってもみませんでした。
そんな選択肢が自分にあろうとは
全く思いもよらないことでした。

Westminster Kingsway Collegeで教えて下さった
当時イギリスのシュガーケーキ業界で知らぬ者はいなかった
全てのコンペの全てのカテゴリーの常勝者 Vivian Lee
私が卒業時に彼女に進路を相談した際に
「あなた、今の技術でも十分にプロとして働けるわよ。」
「もしプロになる気がないのなら
アシスタントとしてカレッジで働きながら
コンペに出品してみない?
あなたは必ず勝てるようになるわよ。」
そう力強く言って下さったこと
その時私は初めて
自分にプロとして働く選択肢があるのだと知ったのです。

その後私は体調を崩してしまい
プロにもアシスタントにもならず
療養することになるのですが
イギリスでの生活が更に3年伸びると夫に言われ
3年間をどう過ごすか考えた時
思い浮かんだのはVivianの言葉でした。

「あなたは十分プロになれる」
「コンペで必ず勝てるようになる」と
迷いなく力強く私の目を見て力説してくれたVivian
私をプロのケーキデコレーターに育ててくれたのは
もちろんZoe Clarkですが
きっかけを与えてくれたのはVivian Lee その人です。

就職経験ゼロの中年の外国人でしかない私に
自信など持てるはずはありません。
あのVivian Leeが
プロになれると言ってくれたのだから
コンペで勝てると言ってくれたのだから
彼女の言葉は当時も、そして今も
私の心の支えです。

帰国後は
娘が日本に馴染めなかったり
コロナ禍に見舞われたり
思いがけないことが続き
思いも寄らない日々を過ごしていますが
彼女の期待に添えるような仕事をしたい
その気持ちを忘れないようにと思います。

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